このように、6種の類人猿ゲノムを網羅的に比較することで、これまで見落とされていた多数のゲノム“ギャップ”や種特異的な重複配列の存在が明らかになりました。

それらの詳細な分析から、各種の分岐年代の再推定やゲノム進化のパターンの比較も行われています。

例えば、本研究によりヒトとチンパンジーの分岐は約550万~630万年前、ゴリラとの分岐は約1060万~1090万年前と見積もられています。

さらに、ゲノム中の系統間の不一致(不完全な系統継承)も詳しく評価され、ヒトとチンパンジーの場合ゲノムの約40%にその痕跡があることが分かりました。

これは以前考えられていたより高い割合であり、ゲノムの未解読領域を含めたことで見えてきた現象だといいます。

このように本研究は、ゲノムの過去から現在までの変遷を細部に至るまで再構築できる新たな資料を提供したのです。

15%の差異が示すもの──ヒト特有の遺伝子機能と「ヒトとは何か」

15%の差異が示すもの──ヒト特有の遺伝子機能と「ヒトとは何か」
15%の差異が示すもの──ヒト特有の遺伝子機能と「ヒトとは何か」 / Credit:Canva

ヒトとチンパンジーのゲノムが最大15%も違っているという事実は、一見すると「たった1%の違いしかない」というこれまでのイメージを覆し、私たちヒトが思った以上に特別な存在であるかのようにも思えます。

もっとも、85%以上は配列が共通することに変わりはなく、生物全体から見ればヒトとチンパンジーが極めて近縁である事実に揺らぎはありません。

その上で今回重要なのは、両者の間に残る違いがどのような種類のものかが具体的に判明した点です。

言い換えれば、「1%」という単純な数字よりも質的な違いに注目すべき段階に科学は踏み出したのです。

この差異15%の中には、先述したようにヒトにしか存在しない遺伝子や配列が数多く含まれています。

これらはヒト特有の体質や能力に関わる要素を秘めている可能性があります。