では、この知見を我々はどのように活かすべきでしょうか。

研究者らはまず、気候モデルや将来予測にサンゴ礁消失によるCO₂吸収フィードバックを組み込むことで、より精緻な炭素収支の評価が可能になると述べています。

たとえば産業革命以降に人類が排出できるCO₂の「残り予算(カーボンバジェット)」試算も、サンゴ礁の劣化を考慮すれば若干ながら上方修正される可能性があります。

言い換えれば、将来サンゴ礁が大規模に失われてしまった場合、気候変動の進行はわずかに減速し、人類が「ネットゼロ」(排出量実質ゼロ)を達成しやすくなる方向に働くかもしれないということです。

もっともこの「利点」は、気候変動への十分な対策が取られず最悪の事態に陥った場合に得られる皮肉な副産物にすぎず、積極的に望ましいものではありません。

むしろサンゴ礁が健全に存続できるよう温暖化ガス排出を削減し、海洋環境を保護することが、人類と地球全体にとって最善の道であることに変わりはないと研究者らは強調しています。

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元論文

Declining coral calcification to enhance twenty-first-century ocean carbon uptake by gigatonnes
https://doi.org/10.1073/pnas.2501562122

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部