タイガの森林枯死は気温上昇で森林が衰退しCO₂が放出される「正のフィードバック」(気候をさらに温暖化させる方向の効果)ですが、サンゴ礁の場合は逆にCO₂を減らす「負のフィードバック」として作用する点で対照的です。

「皮肉な利点」に甘えてはならない

「皮肉な利点」に甘えてはならない
「皮肉な利点」に甘えてはならない / Credit:Canva

「サンゴ礁の喪失が気候変動をわずかに緩和する可能性がある」というのは皮肉な結果ですが、研究者たちは決して「サンゴ礁が無くなっても良い」と主張しているわけではありません。

むしろこの研究は、炭素循環と生態系保全の関係がいかに複雑であるかを示す事例と言えます。

研究チームはこの状況を「重大なパラドックス(逆説)」だと表現しています。

炭素の観点だけで見ればサンゴ礁が衰退した方が大気中のCO₂濃度抑制には有利に働くかもしれません。

しかし当然ながらサンゴ礁には気候調節以上の価値があり、そこで暮らす莫大な生物多様性や沿岸地域への恩恵を犠牲にしてまで得るべき利点ではありません。

筆頭著者のレスター・クフィアトコウスキー氏(ソルボンヌ大学)は「大気中のCO₂に限れば利点に見えるかもしれませんが、生態系が被る損失は計り知れません」と指摘しています(コメントは筆者訳)。

一方、今回の研究には気候変動の専門家からも注目が集まっています。

本研究に関与していないスイス・ETHチューリヒ(スイス連邦工科大学)の生物地球化学者イェンス・ダニエル・ミューラー氏は、「しばしば気候システムでは、プロセスが不安定化を招く正のフィードバックに注目が集まりますが、これは気候を安定化させるフィードバックであり非常に興味深い」と評価しています。

その上でミューラー氏は、「だからといって、この現象を理由に人間が温室効果ガスの排出削減を怠ってよいことにはなりません」とも強調し、今回の結果を気候変動対策の楽観材料と誤解すべきでないと警告しています。