より具体的には、現在の中〜高排出シナリオでは、今世紀半ば(2050年前後)には石灰化低下による海洋のCO₂吸収量の増加が最大で年間0.44ペタグラム(PgC)に達する可能性があります。
これはCO₂の質量に換算すると約1.6ギガトン(Gt)に相当し、人間活動による年間排出量の数%に匹敵する規模です。
平均的な予測では増加幅は0.13 PgC/年程度(CO₂に換算して約0.48 Gt)と見積もられましたが、それでも決して無視できない量です。
海洋のCO₂吸収量増加は、その後も長期にわたり持続すると予想されています。
石灰化の減少による海水の化学的変化(アルカリ度の増加など)はすぐには元に戻らないため、海と大気の炭素ガス交換に影響を与え続けるからです。
シミュレーションでは、2100年頃には海洋が毎年追加で最大約0.4 PgC(炭素換算、CO₂約1.5 Gt)を余分に吸収しうると推計されました。
研究チームはさらに遠い将来まで計算を行い、2300年までに海洋が累積で最大110 PgC(約400 GtのCO₂)多く大気から吸収する可能性も示しています。
仮に110 PgCもの炭素が大気中から追加吸収されれば、気温上昇を抑制する上で相当な効果があります(参考までに、人類が産業革命以降に排出した炭素は累積で約650 PgCと推定されています)。
中央値シナリオの場合、2300年までの追加吸収量は約46 PgC(CO₂約170 Gt)と見積もられています。
いずれにせよ、サンゴ礁の消失がもたらす海洋のCO₂吸収増強効果は、気候システム上無視できない規模であることが初めて明確に示されたと言えます。
この効果の大きさを他の気候フィードバックと比べると、興味深い点が浮かび上がります。
研究によれば、21世紀中に予想されるサンゴ礁消失による炭素吸収増加量は、北方のタイガ(寒帯林)の大規模枯死がもたらす炭素放出量に匹敵する規模ですが、方向は逆であるといいます。