さらに深刻な場合、サンゴ礁の骨格が溶け出す「溶解」が起これば総アルカリ度と無機炭素が増え、海水のpCO₂が下がるため、大気からのCO₂吸収が促進されます。
つまり、サンゴ礁が失われ石灰化が止まれば、海洋からのCO₂放出が減り、場合によっては海が大気中のCO₂を今まで以上に吸収するようになる可能性があるのです。
サンゴ礁が消えることを「利点」と捉えることに拒否感を持つ人もいるかもしれません。
しかし特定の生物種消滅の影響は単純なものではありません。
サンゴ礁消滅に対する正負両面の影響を理解することは、より正確な気候変化の予測において必要不可欠なのです。
そこで今回研究者たちはこのようなサンゴ礁消失による気候への「皮肉な利点」に着目し、その影響の大きさを定量的に評価することにしました。
サンゴ礁消滅で二酸化炭素がより多く海に溶ける

調査にあたってはまず、サンゴ礁の石灰化速度低下に関するこれまでの知見を総合し、現在知られている世界中のサンゴ礁の分布データと組み合わせて、石灰化減少に伴う海水のアルカリ度や無機炭素の変化量を見積もりました。
そして、それらの変化が海洋の炭素吸収に与える影響をシミュレートするために、地球規模の海洋生物地球化学モデルPISCES(基盤にNEMO海洋モデル)を用い、今世紀およびその先の複数の温室効果ガス排出シナリオで計算を行いました。
結果、サンゴ礁の炭酸カルシウム生産(石灰化)が今後低下していくことで、海洋による人為起源CO₂の吸収速度が大きく増加し得ることが明らかになりました。
サンゴ礁消滅は地球温暖化をどの程度押しとどめるか?
モデル計算によると、石灰化の減少により海洋が 2100 年までに累積で 1〜5 %、2300 年までには最大 13 % 多く CO₂ を取り込むことが示されました。
またサンゴ礁壊滅に伴うCO₂の吸収増加を単純に気候モデルに組み込んだ場合、2100年では最大で約0.07℃(0.02~0.07℃)、2300年では最大で0.18℃(0.08~0.18℃)ほど温暖化を抑制する効力があると推測されます。