日本で稲作が始まったのは今から約3000年前と考えられており、一方でアズキ栽培が3000~5000年前ということは、日本では稲作が始まるよりも以前からアズキ栽培が行われていた可能性が出てくるからです。
加えてサヤが自然にはじけにくくなる VaMYB26 変異も同時期に増加しており、収穫効率の向上に一役買ったと解析されています。
まさに日本の縄文時代に「赤い豆の奇跡」が起きていたといえるでしょう。
考古学×遺伝学が塗り替える農業史

今回のゲノム解析によって、アズキの起源に関する長年の謎が解明されました。
従来定説だった「大陸から伝わった作物」というイメージは覆り、アズキはれっきとした「日本生まれの作物」である可能性が極めて高くなったのです。
この発見は、日本の縄文時代の人々が想像以上に植物の栽培・改良を行っていたことを示唆しています。
縄文人は狩猟採集だけでなく、小さな赤い豆をコツコツ育て上げていたのかもしれない──そう考えると、私たちが普段食べている餡子やお赤飯にも歴史を感じずにはいられません。
また、本研究は考古学と遺伝学の橋渡しとなる成果でもあります。
考古学者たちが提示していた「縄文時代の日本でアズキが栽培化された可能性」という仮説に対し、ゲノムデータという異なるアプローチから強力な裏付けが得られました。
このように異分野の知見が合流することで、過去の人類と作物の関わりに新たな光が当てられています。
研究の応用面にも注目です。
今回の研究では700近いアズキやその野生種のゲノム情報が得られましたが、これは今後の品種改良や農業研究にとって貴重な財産になります。
例えば野生アズキが持つ多様な遺伝子の中には、耐寒性や耐塩性、病害虫抵抗性など有用な形質が眠れている可能性があります。
作物の起源地や進化の歴史を解き明かすことは、現在利用されていない遺伝資源(遺伝子)の活用につながるのです。