元裁判官の高部眞規子弁護士も以下のように指摘する(2024年3月19日 文化審議会著作権分科会議事録より)。

今の条文は、情報解析というものを30条の4の第2号で、享受し又は享受させることを目的としない場合の例示として挙げています。そのような条文構造からは、情報解析に当たるとしながら享受目的が併存するので30条の4に当たらないという説明の仕方というのは、ちょっと難しいような気がいたします。

必要と認められる限度という、別の要件のところを考えるとか、あるいは、そもそも情報解析に当たらないという場合もあるのかもしれませんけれども、そういったことも今後考えていっていいと思いますし、著作権者の利益を不当に害するかどうかというただし書の要件を非常に狭く解釈すべきだというような説明の仕方も、いまだ判例があるわけではないので、もう少し自由な考え方が今後出されてもいいのかなというふうに感じました。

享受目的が少しでもあれば、30条の4は適用されないとする文化庁の見解は、技術面、資金面で米国や中国に太刀打ちできない日本の生成AI事業者を法制度面でも縛ることになり、競争上不利な立場に追いやりかねない。

著作権局報告書は結論の冒頭で、「著作権法はその歴史を通じて新たな技術に適応し、創造的活動へのインセンティブを維持しつつ、その進歩を促進してきた。これにより、米国の創造産業および技術産業は、それぞれの分野において世界的なリーダーとなることができた」としている。中国の追い上げが激しい生成AIでもリードを保つべく躍起となっている。

対して、日本はデジタル敗戦に象徴されるように技術産業で遅れを取った。その結果、拡大したデジタル赤字を埋めるためにコンテンツ産業に期待がかかるが、享受目的が少しでもあれば30条の4は適用されないとする文化庁の厳しい解釈に加え、前回投稿でも紹介したとおり、パロディもまだ合法化されていない。こうした法制面での制約を解消しないと、クールジャパン分野を基幹産業と位置付ける「新たなクールジャパン戦略」の成功もおぼつかない。