フェアユースに該当しない可能性のある利用については、継続的な革新を支えるための実務的な解決策が不可欠である。AI訓練に関するライセンス契約は、個別的または集団的な形態で特定の分野において急速に出現しているが、その普及は未だ一様ではない。自主的なライセンスの顕著な成長と、法改正に対する関係者の支持の欠如を踏まえれば、政府による介入は現時点では時期尚早であるとわれわれは考える。

むしろ、ライセンス市場は発展を続け、初期の成功事例を他の文脈にも迅速に広げるべきである。残されたギャップが埋まらないと見込まれる分野においては、市場の失敗に対応するため、拡大集中許諾のような代替的アプローチを検討すべきである。

解説

集中許諾制度は権利集中管理団体が著作権者に代わって著作権を管理する制度で、団体の構成員のみが対象だが、これを構成員以外にも拡大するのが拡大集中許諾制度。日本では多くの音楽家が著作権の管理をJASRACに委託しているが、JASRACが権利者から管理を委託されていない楽曲についても、権利者に代わって管理できるようにする。利用者はこの制度によって権利者を探し出す手間が省けるので、権利者の身元あるいは所在が不明な孤児著作物問題の有効な解決策にもなる。

欧州は2019年に成立したデジタル単一市場著作権指令によってこの制度を採用した。米議会著作権局も2015年に「孤児著作物と大規模デジタル化」と題する報告書を発表。拡大集中許諾制度を創設するパイロット プログラムを提案して、パブコメを募集したが反対が賛成の5倍近くを占めたため、著作権局は立法を断念した。

グーグルが図書館や出版社から提供してもらった書籍をデジタル化し、全文を検索して利用者の興味にあった書籍を見つけ出す書籍検索サービスに対し、フェアユースが認められた直後だった。このため、反対理由として、大規模デジタル化はフェアユースで十分対応可能であるとする意見が約半数を占めた(詳細は城所 岩生 (著, 編集), 山田 太郎 (著), 福井 健策(著)『著作権法50周年に諸外国に学ぶデジタル時代への対応』の拙稿「第5章 フェアユース規定の解釈で対応した孤児著作物対策先進国・米国」(NextPublishing)参照)。