先進諸国元首の中で最初に、イスラエルが武力占領したエルサレムを首都として認めたことと、任期末にイラン革命防衛隊の伝説的指導者、ソレイマニ将軍のドローン爆撃による暗殺指令に署名したこと以外には、新たに軍事介入を始めたり、すでに派兵していた地域での軍事行動を拡大することもありませんでした。
ですから、2020年大統領選でジョー・バイデンに負けたあと、2024年に再度2期目に挑戦したときのスローガンが「反戦平和」だったことに説得力を感じていた有権者もかなりいたようです。
それなのに実際に2期目に入ると、まるで世界中に喧嘩を売っているような政策を矢継ぎ早に打ち出して独断専行型人間の怖さをモロに露呈してしまったのは、いったいなぜなのでしょうか。
トランプの心中を察すれば「反戦平和では広く票を集める役には立っても、多少の不正投票や不正開票があってもびくともしない岩盤支持層は築けない。中年以上のプアホワイトの支持を固めるには、良識ある知識人が目を背けるほど粗野でがさつな人間であることをさらけ出す必要がある」と思っていたのでしょう。
そして、たんに選挙戦術としてではなく、2期目の大統領として自分の特色を出すためにも、この「反知識人」層にうける政策を一貫して追求しようと思っていたに違いありません。
たとえば、アメリカ大統領がおこなう年中行事としてはとくに洗練された立ち居振る舞いと格調の高いスピーチが要求される、ウエストポイント(陸軍士官学校)卒業式でのいで立ちと演説内容です。
まず呆れたのが、例の真っ赤なMAGAキャップを被ったまま列席し、そのままの格好で卒業生への祝辞も述べたことです。
欧米で男性が格式ばった席に呼ばれたとき、被って許される帽子は360度つばのある帽子だけです。つば無しとか、前に庇しがあるだけの帽子は作業服やスポーツのユニホームの一部としか認められません。
ましてや、どう考えても深遠でも高邁でもない話題を並べたあと、「民主主義とは相手に銃口を突きつけてでも自分の言い分を押し通すこと」と宣言するにいたっては、わざわざ「良識派知識人」を挑発しているとしか思えません。