2006年にジョージ・W・ブッシュ大統領のもとで財務長官に就任したハンク・ポールソンは、国際金融危機の発端から終結までを見届けるのですが、彼についてはそもそも就任の動機が不純だったと指摘されています。

金融業界では珍しく1990年から2006年まで16年間ゴールドマン・サックス一筋で会長兼CEOに昇りつめたポールソンは、大量のストックオプションを持っていたのですが、もしふつうに退職後株に換えてから売れば、売却益にそうとう高率の課税があります。

しかし、閣僚に就任する際に「利益相反を避けるために持ち株を売らざるを得なかった」ということになれば、無税で自社株を売り切ることができるのです。

また、結局この金融危機で潰れた金融機関はベア・スターンズとリーマン・ブラザーズだけで、その他の金融機関は何とか生き延びたのも、ポールソンが妙なところで愛社精神を発揮したからではないかとの疑いもあります。

破綻した2社はゴールドマン・サックス同様都市銀行部門はきわめて小さいか持っていない、純然たる投資銀行で、なんとか破綻をまぬかれた金融機関は都市銀行機能が大きな典型的な銀行タイプの企業ばかりでした。つまり、直接の商売敵を潰したということです。

当時フランス政府財務相として、ポールソンと危機対策を協議していたクリスティーヌ・ラガルドは「ポールソンがリーマン・ブラザーズほどの大きな投資銀行を破綻させた場合の金融業界全体に対する影響についてあまりにも無頓着なのが恐かった」と回想しています。

そして、ポールソンの場合、金融企業のCEOだということで、CEOとしての独断専行癖とともに、売り手と買い手双方が満足する解決はない世界で育った人間だという問題も抱えていました。

金融市場は略奪経済の世界

金融市場は、買い手が「この値段なら買って損はない」と思って買いの注文を入れる量と、売り手が「この値段なら売っても損失は出ない」と思って売りに出す量が一致した価格で、売買が成立し、価格と数量が決まるという古典的な自由競争の市場ではありません。