売り手も買い手もカネとカネを交換して、結果として元手より大きな金額を得ようとしているのです。金融市場では、カネ以外のモノやサービスの効用を求めているわけではありません。

そして、もしどちらかが首尾よく元手より大きな金額のカネを手に入れたとしたら、そのときの相手方には元手より小さな金額のカネしか戻ってこなかったということになります。

ふつうの市場経済のように、売り手は買い手の好意を得るためにほかの売り手と競争し、買い手は売り手が自分に売ってくれるように他の買い手と競争する世界ではないのです。売り手と買い手が、直接相手を騙してでも自分が得をしようとする世界です。

ゲンコツやこん棒や石ころや弓矢を振り回すわけではありませんが、結局は強い者、ずる賢い者が弱い者、ずる賢くない者から貴重なカネを巻き上げる世界です。

私が証券業界に入って驚いたのは、とても誠実で勤勉な若手営業マンで成績優秀だと表彰された人が「結局、客のふたりや3人殺さないと一人前の営業マンにはなれませんから」と言っていたことでした。

もちろん、文字どおりの意味で殺すわけではありません。お客さんが長年節約して貯めた投資用の資金をすっかり無くしてしまうような金融商品を勧めるといった体験を何度かしないと一人前にはなれないということです。

そういう殺伐とした世界で頭角を現す人には、やはりそれなりの面魂が備わっています。たとえば現トランプ政権の財務長官スコット・ベッセント氏です。

この写真のタイトルにもあるように、交渉相手にはなるべくコワモテで当たって最大限の譲歩を引き出す、自分のほうはできれば何ひとつ譲歩はしないというスタンスで仕事をする人です。

この人の不朽の迷言に「債務肥大化はかんたんに解決できる。ようするに債務の増加率より経済成長率を高くすればいいんだ」というものがあります。一体どうすれば経済成長率を債務増加率より高くできるのかと聞けば、「それは我々経営幹部の考えることじゃない。お前ら下っ端が工夫することだ」と答えるのでしょう。