しかし、ホモ・ソシオロジクスに関する非合理的な行動は、調査票配布により獲得された計量データよりもずっと得られやすい。研究者によって書き込まれたインタビュー記録が、まさにデータそのものになるからである。
インタビュー調査は方向性のある会話
インタビュー調査は方向性のある会話(guided conversation)だが、そこからの人間記録という資料は、理論化や問題発見には有効だが、検証には適さないと一般的には主張されてきた。調査対象の代表性が証明されないからである。したがって、その調査の目的が理論化なのか問題発見なのか仮説検証なのかを事前によく考えておきたい。
通常の質的調査研究では、まず調査員や研究者が会話記録やその他の資料から、そのもつ意味を把握するところから始まる。利用される諸概念は、日常会話の言語を社会学用語に翻訳したものであり、当初定めた主題やモチーフに沿った分類を試みることが多い。
一貫したストーリーの提示
具体的なインタビュー会話は、研究目的に利用される概念の妥当性を満たすために創られた様式でなされる。収集され分類された会話記録は一級の資料になる。この精査から当初の理論仮説や通説が補強されたり、棄却されて新しい問題が発見されることもある。
実査の手続きは研究者の個性によって特殊化され、他者による模倣はめったになされない。職人芸に近いので、後継者はその方法を盗むしかない側面がある。分析は、作成された会話記録と収集された資料からトピックに沿った一般化を引き出し、一貫したストーリーを提示できるように進められる。
山崎朋子『サンダカン八番娼館』(1975)
そのため、講義でも質的調査で成功したいくつかの社会学文献を紹介していたが、反応が一番よかったのは、社会学ではなくノンフィクションの山崎朋子『サンダカン八番娼館』(1975)であった。
山崎は、「底辺女性史」研究目的で、天草出身の「からゆきさん」だった女性に出会い、紆余曲折を経て「三週間その対象者の家に泊まり込み」、毎日聞き取った体験談を忘れないうちに翌朝必死で便箋に書きつけて、それを郵便で東京の自宅に送った(山崎、同上:64)。