「データ共有からの発見された現実」は混沌として煩雑であり、方法論的な整備が困難である。この特定の事例は時代に左右され、地域的特性に制約されるので、そこから一般的な法則性を確認することも難しい。調査そのものがいわば一期一会の出会いと会話なのであった。
日本近代史と「からゆきさん」の日常的な暮らし
ただし山崎は、一方では日本近代史をきちんと押さえており、その中での「からゆきさん」の日常的な暮らしを文字通り三週間の参与観察によって描き出して、「大宅壮一ノンフィクション賞」にふさわしいみごとな質的調査による作品に仕上げた。この本は、問題意識、方法、結論が質的調査の事例として優れているので、講義でも毎年紹介していた。
理論的にはここから、局所的、部分的、一時的な変化が、全般的、全体的、連続的な変化に含まれ、しかも全体としての平衡と秩序を維持させることを学ぶことができる。これを図で表現すれば、図1を得る。

図1 ライフ・ヒストリー法の可能性 (出典)金子、2000:121.
個性記述か法則定立か
事例研究法ではとりあえず個性記述を丹念に行い、それがその時代とどのような関連をもつのかを考えてみる。自分だけのインタビュー調査事例には限界があるので、類似の事例をも参照しながら、その個性から共通に抽出できる傾向を探求して、法則定立の可能性を追究する。
私も、『社会学的創造力』から15年後に刊行した『日本のアクティブエイジング』(2014)では18名の高齢者のライフ・ヒストリーを掲載したが、それらの個性的な生き方の比較により、「アクティブエイジング」の「法則性」らしきものが窺えた。
ライフ・ヒストリー分析からの3方向
図1の右側では、異文化理解、類型構成、仮説索出の組合せとしたが、このうち異文化理解の事例として、講義では「りんごのほっぺ」の話をすることが多かった。
「りんごのほっぺ」についての日本文化のイメージ、すなわち日本語による意味としては、子どもの赤い(紅い)ほっぺに象徴されるように、それがシンボルとして表わすのは「赤い色」である。