さて、講義でめざした「実証的な理論社会学」にとっての出発点を、社会学研究法の留意点として3点に整理した。
Ⅰ 問題意識(何のために・何を) 社会学の研究対象は資本主義論のようなマクロのテーマでもいいし、児童虐待のようなミクロな家族問題でも構わない。なぜならどちらでも、マクロレベルとミクロレベルに思索を往復することになるからである。だから、それを取り上げる理由を自問自答して、論文の冒頭に示しておきたい。
Ⅱ 研究方法(どのように研究するか) 次にそのテーマを研究するにふさわしい方法を決めることになるが、多くの場合は政府・自治体・企業などが公表した公的資料、現地の町内会長、市議、市役所課長などに紹介していただいた対象者とのインタビュー調査、都市自治体レベルで住民基本台帳からランダムサンプリングにより500名程度を抽出し、調査票持参で訪問面接(最近では郵送が多い)の3者から選択する。もちろん2つの方法を組み合わせてもよい。
Ⅲ 大要概括(その結果、何が明らかになるか) 第三には、テーマと研究方法を決定して、その調査結果が得られた際には、何が明らかになるのかを事前に想定しておく。児童虐待であれば、加害者としての父親もしくは母親の問題が原因か、それは失業か、家庭内不和か、貧困か、親の病気かなどを調べた結果、その対策をどのように提言するかという問題設定になる(金子、2020)。
これらⅠⅡⅢがしっかり満たされていれば、その卒論、修論、博士論文は高得点で合格になる。結論にはその研究成果が、当初の出発点からどこまで進んだかを書ければ、さらに評価が上がる。
社会学の実証性としてのインテンシブな質的調査
個別事例を最大限に生かすインテンシブな調査は、研究者が調査票を用いずに対象者に数時間のインタビューを伴う行為である。これは勤勉さを必要とし、骨が折れると同時に、対象者との信頼関係を維持し、規律を必要とする研究方法である。