教育の狙いを優秀なエリート層に置けば、落ちこぼれが多くなるし、平均値の向上に絞れば、個性ある人材が出にくくなる。道路を歩行者優先にすると、クルマの性能は削減されるが、クルマの暴走行為を制御しなければ、交通事故が多発する。いずれの社会現象にも表裏がある。

顕在的機能と潜在的機能

一般的に「社会的機能とは、観察しうる客観的結果を指す」(同上:20)。多くの場合、人間の営みはその意図に応じた観察できる結果をもたらす。体調が悪い時に医師の診察を受けたり、薬を飲んだりすることも、クルマの免許を取るために自動車学校に通うことも、明確な意図とその予想される結果が存在する。

そのために、行為の結果としてはどうしても顕在的機能に目が向きやすい。「顕在的機能とは、一定の体系の調整ないし適応に貢献する客観的結果であって、しかもこの体系の参与者によって意図され認知されたもの」(同上:46)である。

医師の診察と治療は患者の健康回復に主観的にも客観的にも寄与するし、自動車学校での学習結果、運転免許の試験に合格できる。

機能の組合せ

顕在的正機能・逆機能、潜在的正機能・逆機能を使って、対象を四つの角度から分析する方法を組み合わせると表1を得る。

表1 機能の組合せ(出典)マートン(1957=1961:46)

機能分析の事例

日本の高度成長初期、すなわち1960年代はまだ小売業が健在な時代であったが、そのころからアメリカ流のスーパーマーケットが日本各地でたくさん作られ、営業を開始した。「主婦の店ダイエー」が設立されたのは1957年4月である。駐車場があり、商品の数が多く、しかも零細小売店に比べれば格安だったので、スーパーはたちまちたくさんの零細小売店を駆逐した。

この場合、スーパーの顕在的機能は「良いものをますます安く」に象徴され、国民の大半がこれを歓迎した。その時期に零細小売店は廃業を余儀なくさせられたのである。スーパーを歓迎した国民の意思は明快であるが、それはスーパーのもつ顕在的機能を支持したことに他ならない。

小売店の廃業はスーパーのもつ潜在的機能