「経験的調査は社会学の諸理論や諸概念を創始し(initiate)し、再方式化(reformulate)し、再焦点化(refocus)し、明確化(clarify)する」(マートン、1957=1961:9)。その反復確認が、社会学的な事実確証のための最上の方法である。

「論文」から「私論」への陥穽

すなわち、「論文」は使用するエビデンスの精密分析を軸とした論考であるが、「私論」はむしろ本人の経験に依拠して、客観的なエビデンスを示さないことが多い。この陥穽をいかに避けるか。これから自由になるためには、「論文」執筆の際に方法論と方法技術の物神化に気を付けるしかない。

依拠する方法技術は、研究目的と明らかにしたいテーマから自然に決定されるはずであるから、妥当にして観察可能な指標を工夫し発展させたい。これによって、既述したミルズの「あらゆる者は自己の方法論者」の世界を広げることになる。

正機能と逆機能

「概念の数は多い、だが確認された理論は少ない。観点は多いが、定理は少い。方法は多いが、成果は少い」(同上:7)。

70年前のマートンの指摘は、現在でも日本社会学会のレベルでみると、依然として真理であり続けている。ただおそらく、「少ない理論、少ない定理、少ない成果」を克服するためにも、機能分析の活用が極めて有効であることは間違いない。

「機能とは、一定の体系の適応ないし調整を促す観察結果であり、逆機能とは、この体系の適応ないし調整を減ずる観察結果である」(同上:46)。さらにいえば、「逆機能の概念は、構造的平面におけるひずみ、圧迫、緊張の概念を含む」(同上:48)。

物事の表裏も同時に把握する

社会学の専門用語とは無関係に「機能と逆機能」を表現し直せば、物事には表裏もしくはプラスマイナスが必ずあることと同義になる。

たとえば活発な大衆運動は近代デモクラシーの指標であるとともに、社会的緊張の激しさでもある。規制緩和は経済的競争を促進するので、良質で安価な商品とサービスが国民に提供されやすい反面、競争に負けた企業の倒産とその結果による失業者の増加を覚悟しなければならない。だからといって、「談合」を温存すれば、倒産と失業は回避できるが、業界全体の競争力は高まらないし、不透明度が強くなる。