つまり、「フランスにVATが導入されたのは、自国の輸出企業に隠れた補助金を与えるため」というよりは、むしろ「フランス以外の周辺国が採用していた累積型の売上税が、税の累積(コストへの加算)が不透明であること、そして輸出時にその税を正確に排除・還付することが困難である(あるいは、その困難さゆえに意図的かどうかにかかわらず過大に調整される可能性がある)ことを背景に、輸出入において歪みを生じさせていた。
これを是正し、EEC域内での公平な競争環境を確立するために、フランスが自身の開発したVATモデル(輸出品から国内税を完全に排除できる透明性の高いシステム)をEEC諸国に働きかけ、共通税制として採用させた」という理解の方が、より事実に近いと考えられます。(中略)
「フランスが輸出企業に隠れた補助金を出すためにVATを導入した」という言説は、VATの輸出における税負担ゼロという側面だけを見て、その前に存在した累積税の不合理や、国際的な税制調和の動きを無視した単純化された見方です。
むしろ、フランスは自国の税制をより合理的で輸出に中立なもの(VAT)に改革し、その上で、他のEEC加盟国が採用していた(輸出において歪みを生じやすい)旧来の税制を、より透明で公平なVATに統一するよう働きかけた、と考えるのが正確です。
これにより、EEC域内全体での貿易が促進され、フランス企業を含む各国の輸出企業が、税制による不当な不利や有利を受けることなく競争できる環境が整備されたと言えます。
VATは、隠れた補助金を生み出すシステムではなく、隠れた補助金(またはその疑念)が生じうる旧システムを是正するためのツールとして、EECにおいて広く採用されたのです。
要するに、フランスに付加価値税が導入されたのは当時不振の輸出企業にたいして隠れた補助金を支給するためだというのは全くの誤解。
むしろ、累積型の間接税では、税がコストに紛れ込むことを正確に排除できないことを改善するために付加価値税が導入された。