これまでの研究から、ASDの診断比率は男性が女性の4倍も多いことが示されていることを考えると、幼少期にまったく性差が見られないというのは意外に思えます。

しかし、この結果はASD症状が、女性だけ成長とともに見られなくなる(あるいは見つけづらくなる)ことを示唆しています。

ではなぜそのようなことが起こるのでしょうか? この「女性は成長とともにASD診断比率が下がる」理由には、いくつかの原因が考えられます。

ひとつは、生物学的な発達の違いが年齢とともに影響を及ぼすという仮説です。これはたとえば、思春期に分泌されるホルモンの違い、男性ホルモン(テストステロン)や女性ホルモン(エストロゲン)が、脳の社会的機能の発達に異なる影響を与えることで、性差が次第に現れてくるという可能性です。

また、重要なのは、診断そのものに用いられる評価基準が、過去の研究や診断事例の蓄積をもとに設計されているため、単に男性を中心に確立された「ASDらしさ」の基準が、女性の特性を正確に捉えきれていない可能性もあります。

ただ、こうした傾向と結びつく興味深い報告が近年注目されています。

それがASDの子どもや大人が社会の中で“普通に見せる”ためにとる、ある種の適応行動です。これは「カモフラージュ行動(camouflaging)」と呼ばれるものであり、特に女性のASDにおいて強く見られる傾向があることが報告されています。

これは、ASDは男性で発症しやすいというより、成長するにつれて、女性の方が隠すのが上手くなる可能性を示唆しています。

「普通に見せる」という無意識の努力——カモフラージュ行動とは

ASDの症状に男女差がほとんど見られない幼児期に対し、成長するにつれて女性のASDだけが“見えにくく”なる理由として、気になるのが「カモフラージュ行動(camouflaging)」です。

この言葉は、ASDの人が周囲に「普通に見せる」ために、症状を隠したり、振る舞いを修正したりする行動を指します。