「人と話すのがしんどい」「会話中は平気なのに、あとでどっと疲れる」
そんな感覚を抱いたことがある人は多いのではないでしょうか。特に、初対面の人との会話や集団での雑談のあと、「家に帰ると何もする気が起きない」「一人になってようやくほっとする」と感じることがあるかもしれません。
こうした“対人コミュニケーションの疲れ”は、いわゆる内向的な性格や、人間関係に気を遣う性格の一部とされてきました。けれども、近年の研究では、この感覚の背後に、より深い発達特性が隠れている可能性が指摘されつつあります。
特に注目されているのが、「自閉スペクトラム症(ASD:Autism Spectrum Disorder)」という発達特性との関係です。中でも、ASDの女性が社会に適応するためにとる「カモフラージュ行動(camouflaging)」は、本人さえも気づかないうちに強い疲労やストレスを招いていることがあり、専門家の間で警鐘が鳴らされています。
この行動は一見、誰にでもある人付き合いでの“気疲れ”と似ています。しかし人によっては、ASDであることに気づかず「無理をして普通に見せようと努力」しているために、本人に非常に大きな精神的負荷を掛けてしまっている事例も報告されています。
当たり前の生活をしているように見えても、人と話すことに極端に疲れるという人は、この問題にが関連しているかもしれません。
本記事では、最近発表された国際的な研究成果をもとに、ASDの「見えにくさ」と「カモフラージュ行動」の実態を解説していきます。
目次
- 「ASDは男性に多い」は本当か?——幼少期には見られない性差
- 「普通に見せる」という無意識の努力——カモフラージュ行動とは
- 誰でも少しはASD的?——疲れやすさの背後にある「特性のグラデーション」
「ASDは男性に多い」は本当か?——幼少期には見られない性差
自閉スペクトラム症(ASD)は、社会的なコミュニケーションの困難さや興味・行動の偏りを特徴とする発達特性です。