内製化がもたらす多層的価値創造
東京都がGovTech東京を設立したのは、こうした課題を克服するために、東京都自身が主体的にシステムの開発、改善に取り組める体制を整え、行政サービスを提供するプロフェッショナルの視線で、持続的な開発と改善を進める内製化、すなわち行政DXの専門家集団を形成するためということだ。
取り組みはまだ始まったばかりだが、「現場」に精通した職員にITエンジニアが寄り添いながら、問題解決を進めてきたことで、都職員の中にも“行政DX”や“デジタル化”といったキーワードに対し、自分たちも行政イノベーションに参加できる、という当事者意識が生まれ始めているという。
この意識改革に加え、行政の知識とデジタル技術を掛け合わせ、“本当に使える現場に即した”デジタルサービス開発と改良を重ねていくことが都民のニーズに真に応える質の高いデジタルサービスの提供につながっていく。
行政サービスの分野は多岐に渡るがゆえに、外部からは見えにくい特有の課題や行政サービス間の連携ノウハウがある。それら有機的に結びつくサービスノウハウが、システムに反映される機会ともなるだろう。GovTech東京・エグゼクティブアドバイザーの及川氏は「東京都の内製化アプローチは、全てを自前で開発する極端なものではない。行政システムの広範さと複雑さを考慮し、“システムの頭脳”となる企画・設計、都民の顧客体験に直結するフロントエンド、システムの運用と保守を行うプロダクトマネジメント、システム運用の中で生まれるデータ活用などについて、重要性を勘案した上で戦略的に内製化を行う」とも話す。
核となる要素を内製化することで、外部ベンダーと密に連携するハイブリッドモデルも推し進めることが可能だ。全てを外注に頼っていたころは、そもそも外部のベンダーと協業するためのカウンターパートさえなかったからだ。
戦略的実装:東京都公式アプリの内製開発
この内製化アプローチの第一段階として、持続的に改良を重ねていくプロジェクトとして開発が始まっているのが「東京都公式アプリ」だ。このアプリは現状ではシンプルな「ポイントアプリ」であり、例えば都民がボランティアに参加すると、それに対してポイントが付与され、民間のポイントや、都の施設利用券との交換を可能にするといったものだが、これは始まりにすぎない。
今年後半にはマイナンバーカードを用いた公的個人認証機能を導入し、将来的には、各種手続きの申請など、個人に紐づいた行政サービスを受けるための、一元化された入り口にしていくという。宮坂氏は「将来的には都内の区市町村の行政手続や、給付金の申請など、都民が受けるべき行政サービス全体への入り口となるようなアプリを目指す」と話す。
もちろんゴールが近いわけではない。そもそも区市町村との連携にあたっては、それぞれの自治体との合意が必要だ。それらを一度に全て実装できるわけではないが、内製化を行うことで持続的な改良と発展、それに社会におけるデジタル技術の普及状況、技術トレンドなどに柔軟に対応しながら「100年間発展し続けるデジタルサービスにしていく」(宮坂氏)という。