インディアナ大学のドボラコバ博士らはまず、培養細胞を使ってアセトアミノフェンがエンドカンナビノイド産生酵素DAGLαに及ぼす直接作用を調べました。
具体的には、HEK293細胞にDAGLαを過剰発現させ、受容体(M3受容体など)を刺激して2-AG生成を誘導するモデルを用い、そこにアセトアミノフェンを加えるとどうなるかを観察したのです。
その結果、アセトアミノフェンがDAGLαの働きを阻害し、2-AGの生成を大幅に抑制することが明らかになりました。
つまり、この薬は2-AGを作る“蛇口”を閉めるような形で、結果的にCB1受容体への刺激を減らし、痛み信号を抑制している可能性が示唆されたのです。
従来の常識からすれば「内因性カンナビノイドを減らしてどうやって痛みを抑えるのか?」という逆転の発想ですが、まずは細胞レベルでそのメカニズムの一端が裏付けられた形です。
次に研究チームは、このメカニズムが実際に生体の鎮痛効果につながるかをマウス実験で検証しました。
マウスの足裏を加熱板に乗せ、痛みを感じて足を引っ込めるまでの時間(痛み閾値)の変化を見る方法です。
正常なマウスではアセトアミノフェン投与後、痛み閾値が有意に延長し(痛みを感じにくくなる)鎮痛効果が確認されました。
しかし、カンナビノイドCB1受容体を欠損したマウスではこの鎮痛効果が見られず、CB1受容体がアセトアミノフェンの作用に必須であることを示す重要な結果となりました。
さらに決定的だったのは、アセトアミノフェンと同様にDAGLα酵素を阻害する化合物を投与した場合にもマウスの痛み閾値が上昇し、鎮痛が生じた点です。
研究チームが使ったDAGLα阻害剤RHC-80267は、アセトアミノフェンとほぼ同程度の鎮痛効果を示しました。
言い換えれば、「2-AGを減らす」という操作そのものが痛みを和らげる可能性を示したのです。
ドボラコバ博士は「私たちは長く、エンドカンナビノイドが増えれば痛みは減ると考えてきましたが、2-AGに関してはその逆であるケースがあると分かりました。