まず、研究者たちは培養細胞を使って「この薬が“別バージョンの鎮痛物質”(2-AG)を作る“工場”をどの程度止めるのか」を調べました。
具体的には、細胞の中で2-AGを増やす仕組みをわざと働かせ、そこにアセトアミノフェンを加えて、2-AGがどれだけ減るかを測定したのです。
その結果、アセトアミノフェンが“工場”のスイッチをしっかり切っていることが確認され、「やっぱり脳内の“麻薬のような物質”を増やすわけじゃなく、むしろ減らしているのでは?」という仮説に一歩近づきました。
さらに次のステップとして、マウスを使った実験が行われました。マウスの足裏を温める装置に乗せ、痛みにどれくらい耐えられるかを見るテストです。
もしアセトアミノフェンが2-AGを減らして痛みを抑えるなら、正常なマウスには鎮痛効果が出るはずで、反対に“受け取り手”が働かないマウス(遺伝子を欠損させてある)には効かないはず……というわけです。
そして結果はまさにその通り。「受け取り手」を持っている普通のマウスには効果抜群でしたが、「受け取り手」が欠損しているマウスには効きませんでした。
これは「アセトアミノフェンが“受け取り手”と2-AGの関係を利用して痛みを止めている」ことを示す有力な証拠となったのです。
さらには、アセトアミノフェンと同じように“別バージョンの鎮痛物質”を減らす薬を投与してみたところ、アセトアミノフェンとほぼ同じように痛みを和らげた、という決定的なデータも得られました。
要するに、「2-AGを減らすだけで、ちゃんと痛みが軽減する」ということが明確になったわけです。
こうして細胞実験とマウス実験で得られた複数の証拠がそろい、「アセトアミノフェンが実は“別バージョンの鎮痛物質”を減らして痛みを止めている」という新たなシナリオが信ぴょう性を増しました。
まさに、従来の「快楽物質を増やせば痛みが減る」という考え方の真逆を行く結果であり、当初は研究者たちも「本当か?」と疑ったそうですが、実データによって裏付けられたことで学会でも大いに注目を集めています。