従来提案されてきた仮説としては、中枢でのシクロオキシゲナーゼ(COX)阻害やセロトニン経路の関与などが挙げられますが、とりわけ「エンドカンナビノイド系が関わっているのではないか」という説が注目されてきました。
エンドカンナビノイドとは、体内で作られる内因性のカンナビス様物質の総称で、CB1受容体に結合して痛みを抑制すると考えられています。
実際、アセトアミノフェンがカンナビノイド受容体を欠損したマウスでは鎮痛効果を示さないとの実験結果もあり、「アセトアミノフェンはエンドカンナビノイド量を増やし、CB1受容体を活性化することで鎮痛をもたらす」という説が有力でした。
特に、アセトアミノフェンから生成される代謝物AM404がエンドカンナビノイドであるアナンダミドを脳内で増やすことで鎮痛が起こるという仮説は広く支持されてきました。
しかしこの仮説には、AM404が脳内で十分量生成されるかどうかなど、不確かな点も多く指摘されています。
さらにアナンダミドを分解するFAAH(脂肪酸アミドヒドロラーゼ)を欠損させたマウスでもアセトアミノフェンの鎮痛効果が部分的に見られるケースがあり、これだけでは説明しきれない仕組みがある可能性が高まっていました。
そこでインディアナ大学の研究チーム(ミカエラ・ドボラコバ博士ら)は、アセトアミノフェンともう一つの主要エンドカンナビノイド2-AGの関係に注目し、その作用機序を根本から再検討する研究を実施しました。
2-AGは脳内で非常に豊富に存在し、CB1受容体を活性化する役割を担う一方、これを合成する酵素DAGLαが欠損したマウスでは痛みの感受性が低い(鎮痛状態にある)という報告もありました。
もし「エンドカンナビノイドを増やす」のではなく「2-AGを減らす」ことで痛みを抑える回路が存在するなら、アセトアミノフェンの謎を解き明かすカギになるかもしれない――研究チームはその仮説を実験的に検証したのです。
【実験と結果】痛みを抑える物質を抑えると痛みが消えるという発見

実験と結果のざっくり解説版