しかし最近、「アセトアミノフェンは脳内の“別バージョンの鎮痛物質”をわざと減らすことで痛みを抑えているかもしれない」という新しい考えが注目を集めています。

問題の“別バージョンの鎮痛物質”とは、2-AGと呼ばれる成分です。

鎮痛物質を減らして痛みが減るというと奇妙に聞こえるかもしれませんが、実は脳にはさまざまな回路があり、ある回路では2-AGが増えると逆に痛みが強まる可能性があるのです。

これは脳の仕組みが“単純に快楽物質を増やせば痛みは減る”とは限らない、ということを示唆しています。

たとえば、ある回路では2-AGが「痛みをやわらげるブレーキ」をさらにブレーキするような働きをしてしまい、結果として痛み信号が増幅される、という二重のしくみが起こり得るのです。

そこでアセトアミノフェンは、2-AGを作る“工場”を抑えてその量を減らすことで、こうした逆効果の回路を静かにさせている可能性があります。

つまり、「必要以上に働きすぎるブレーキをブロックすることで、痛みの伝わりすぎを防ぐ」というイメージです。

この点が、従来説の「快楽物質を増やして“受け取り手”を刺激する」とは真逆の発想で、学界からも初めは懐疑的な声が上がったといいます。

そこで今回は別バージョンの鎮痛物質「2-AG」を減らすことが本当にアセトアミノフェンの鎮痛の仕組みかを確かめることにしました。

研究背景の本解説

アセトアミノフェンは19世紀末に初めて合成され、1950年代からタイレノールの名で世界中に広まり、現在では最も一般的な鎮痛・解熱薬の一つとして知られています。

比較的安全とされ市販薬にも多用されている一方、過剰摂取による肝障害が原因で毎年アメリカで約500人もの死亡者を出し、世界的にも急性肝不全の主要な要因となっています。

それほど多くの人が日常的に使っているにもかかわらず、その正確な鎮痛メカニズムは「いまだによく分かっていない」とされてきました。