実際に2-AGレベルを低下させると痛みが減ったのです」と述べています。
このように、細胞レベルから動物実験まで複数のアプローチを通じて、アセトアミノフェンが「2-AGを抑えることでCB1受容体への過剰な刺激をブロックし、鎮痛をもたらす」という新しい可能性が浮上しました。
従来説の「エンドカンナビノイドを増やしてCB1受容体を活性化する」モデルとは真逆のメカニズムです。
研究チーム自身も当初は学界から懐疑的な声があったといいます。
研究責任者のアレックス・ストライカー博士は「50年もの研究が『CB1受容体を活性化すれば痛みは和らぐ』と示してきたこともあり、これまでの定説を覆すのは容易ではありませんでした」と語っています。
鎮痛薬デザインは第2章へ
今回の研究により、以前は「脳の“受け取り手”をガンガン刺激して、痛みよりも快感を優位にする」と考えられていましたが、実際には「場所によっては、むしろ“受け取り手”の過剰な働きが痛みを増幅する」という回路が存在し、それを2-AGが後押ししてしまうケースがあるかもしれないことが示唆されました。
脳内のメカニズムは単純に「快楽物質を増やせばOK」ではなく、必要な部分では抑えることも重要になり得るわけです。
(※実際、本研究が明らかにした回路では、CB1受容体の過剰な活動がむしろ痛みを増幅させており、アセトアミノフェンはそのブレーキ役として働く可能性が高いのです。)
長年「なんだかよくわからないけど効く薬」とされていたアセトアミノフェンに、新たなメカニズムが見つかったことで、将来的に「肝障害などの副作用を抑えつつ、同じ回路をターゲットにできる新しい痛み止め」を開発できるかもしれません。
その一方で、痛みにはいろいろな種類がある(慢性の痛み、炎症による痛み、神経痛など)ので、「どの痛みに効くのか」や「他の薬も同じ仕組みを持っているのか」は、まだまだ詳しく調べる必要があります。