とはいえ、本研究は「脳には複数の回路があり、一見鎮痛物質と思われているものでも逆に痛みを増やすことがある」という重要な事実を突き止めた大きな一歩だといえます。
ストライカー博士は「ターゲットが分かれば薬の設計が進められる」と述べています。
実際、今回の研究から、DAGLα(2-AG合成酵素)が鎮痛の有望な標的であることが示されました。
もしこの酵素だけを選択的に阻害できれば、アセトアミノフェンが抱えてきた肝毒性などの副作用を低減しつつ、痛みを抑える薬の開発も見込まれます。
さらに興味深いのは、このメカニズムがアセトアミノフェン以外の鎮痛薬にも関係する可能性です。
研究チームは今後、イブプロフェンやアスピリンなどの一般的な鎮痛薬にも類似の作用があるかどうかを調べる予定だといいます。
もし意外な共通点が見つかれば、痛み止めの「常識」はさらに書き換わるかもしれません。
もっとも、痛みは種類が多岐にわたり、それぞれ異なるメカニズムが作用していることも事実です。
今回の研究は急性の熱痛に着目しましたが、慢性痛や炎症性の痛みなどでは別の経路が重要となることも考えられます。
それでも本研究が示した発見は、痛み研究のパズルを埋める一つの重要なピースと言えそうです。
ストライカー博士らは「この成果がエンドカンナビノイドをめぐる鎮痛研究を加速させるだろう」と期待を寄せています。
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元論文
Acetaminophen inhibits diacylglycerol lipase synthesis of 2-arachidonoyl glycerol: Implications for nociception
https://doi.org/10.1016/j.xcrm.2025.102139
ライター
川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。