実際、鼻マスクの装着に悩まされてきた患者にとって「寝る前の一錠」で同等の効果が得られる可能性は朗報であり、医師の間でも「睡眠医療のゲームチェンジャーになり得る」との声が聞かれます。
一方で、この薬が万人に効く万能薬ではないことも念頭に置く必要があります。
たとえば今回の結果では、平均すると無呼吸発作が半減しましたが、それでも完全には睡眠時無呼吸症候群が残ってしまう患者もいます(重症の人ではAHIが40から18に減ったとしても、まだ中等度の無呼吸が残存する計算です)。
CPAPマスクであれば適切に使用すれば無呼吸をほぼ100%抑制できますが、AD109の効果はそれに比べれば現時点では約50%の改善に留まります。
しかしながら「50%でも改善すれば睡眠の質は大きく向上し、長期的な健康リスクも下がる」という見方もあります。
特にCPAPマスクを使えず無治療でいるよりは、薬で半減させるだけでも心血管リスクの低減や日中の眠気改善につながる可能性が高いでしょう。
専門家は「どの患者が特にこの薬の恩恵を受けやすいのか(例えば軽症〜中等症で肥満のないタイプにより有効なのか等)を今後見極める必要がある」と指摘しています。
また、有効率22.3%という「完全にコントロールできた患者」の特徴を解析し、治療前に予測できれば理想的です。
AD109は睡眠中の交感神経活動を高めるため、若干の心拍数・血圧上昇を伴う可能性があります。
したがって「睡眠の質向上によるメリットと、若干の心血管への負荷増加とを天秤にかけて、総合的に健康にプラスかどうか評価する必要がある」という慎重な意見もあります。
幸い今回の試験では重大な副作用は見られませんでしたが、長期的な安全性や効果が持続するかについて、引き続き検証が求められます。
3-2:2026年には睡眠時無呼吸症候群の薬が認可される見通し
今回のAD109の成功は、睡眠医学における「精密医療(Precision Medicine)」の流れを加速させるものとして注目されています。