睡眠時無呼吸症候群は患者ごとに原因の組み合わせが異なり、肥満による気道狭窄が主因の人もいれば、筋肉の神経調節機能低下が主体の人、あるいはその両方が関与する人もいます。

そのため一種類の治療では全員を満足させることが難しく、複数のアプローチを組み合わせて対応する「オーダーメイド治療」が理想とされます。

今回のAD109は神経筋の機能低下に着目した治療ですが、他にも解剖学的原因に対処する治療として減量薬や外科手術、歯科装具、あるいは最近登場した舌下神経刺激デバイス(埋め込み式ペースメーカーで舌の神経を直接刺激する治療)などがあります。

実際、2024年末には肥満のある睡眠時無呼吸症候群患者向けに体重管理薬(糖尿病治療薬でもあるチルゼパチド)が米国食品医薬品局に承認され、これが睡眠時無呼吸症候群初の経口治療薬となりました。

しかしこの薬は肥満が原因のケース限定であり、痩せた人や神経筋要因の強い睡眠時無呼吸症候群には効果が期待できません。

一方AD109は肥満の有無に関係なく、軽症から重症まで幅広い睡眠時無呼吸症候群の患者に効果を示しており、既存治療では救えなかった層に光を当てるものです。

「糖尿病にインスリンだけでなく飲み薬が多数あるように、睡眠時無呼吸症候群も様々な作用機序の複数の薬剤を揃えることで、患者ごとの多様な病態に対応できるようになるだろう」と研究者らは展望しています。

SynAIRgy試験の詳細データは2025年中に専門の学会や学術誌で発表される予定であり、現在並行して実施中の2つ目の第3相試験「LunAIRo(ルネイロ)試験」からも2025年第3四半期に結果が得られる見通しです。

LunAIRo試験ではAD109を1年間投与した場合の持続効果や安全性を評価しており、SynAIRgy試験と合わせて十分なデータが揃えば、製造元のApnimed社は2026年初頭にも米国食品医薬品局へ新薬承認申請を提出する計画です。