アメリカのピッツバーグ大学メディカルセンター(UPMC)を中心とする多施設共同研究によって、寝る前にたった1錠飲むだけで舌や喉の筋肉の張力を高め、睡眠時無呼吸症候群の発作を投与前ベースライン比で平均約55%も抑え込めるという驚きの結果が示されました。

この経口薬は睡眠中に上気道の筋肉を活性化して気道を保つしくみで、これまで就寝時にマスクとホースを装着して空気を送り込むCPAP療法(専用マスク)に頼るしかなかった患者にとって、より手軽な選択肢になり得ます。

マスクのわずらわしさから治療を途中で断念する人は少なくありませんが、果たしてこの“飲み薬”は救世主となるのでしょうか?

第2相(4週)の結果は『American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine』掲載され、今回の第3相(6か月)トップラインは 2025年5月19日のプレスリリースで速報されました。

目次

  • 1:睡眠時無呼吸症候群と既存の対策
  • 2:睡眠時無呼吸症候群に薬で立ち向かう時代が来た
  • 3:睡眠医療に新時代

1:睡眠時無呼吸症候群と既存の対策

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Credit:Canva

1-1:睡眠時無呼吸症候群とは?

睡眠時無呼吸症候群は、睡眠中に喉や上気道が繰り返し塞がることで呼吸が停止または低下する疾患です。

原因は複合的で、睡眠時に喉の筋肉を十分に緊張させ続けられない神経筋の機能低下と、扁桃肥大や肥満など気道が狭くなりやすい解剖学的要因が重なって起こります。

この結果、一晩に何百回も呼吸が途切れ、そのたびに血中酸素が低下し睡眠が分断されます。

睡眠時無呼吸症候群は非常に身近な病気で、米国では約8,000万人、世界全体で10億人もの人が罹患していると推定されます。

しかしその約80%が未診断・未治療ともいわれる「潜在的な国民病」です。

この酸素不足と睡眠断片化は全身に大きな負担をかけ、高血圧や心臓病、脳卒中、2型糖尿病などのリスクを高めます。