さらに慢性的な睡眠不足による日中の強い眠気は、仕事の能率低下や交通事故の原因にもなります。

近年では、睡眠時無呼吸症候群が認知症(アルツハイマー病)や軽度認知障害の発症リスクを2倍以上に高める可能性も指摘されています。

このように睡眠時無呼吸症候群は生命を脅かし得る深刻な慢性疾患でありながら、自覚症状がいびき程度に思われ放置されがちで、公共保健上の優先課題と見る専門家もいます。

1-2:現行の標準治療とその課題(CPAPマスク療法)

睡眠時無呼吸症候群の治療といえば、現在はまずCPAPマスク療法(シーパップ療法)が標準的です。

これは就寝時に鼻や口にマスクを装着し、持続的に空気を送り込むことで、喉の内側から気道を押し広げて閉塞を防ぐ機械装置です。

適切に使用すればCPAPマスク療法は非常に効果的で、一晩の無呼吸発作をほぼ完全になくすことも可能です。

しかし最大の欠点は「使いづらさ」にあります。

マスクやホースによる不快感、機械の騒音、肌への圧迫感や口鼻の乾燥といった問題から、多くの患者が十分な時間装着できず、治療を途中でやめてしまうのです。

事実、睡眠時無呼吸症候群と診断された人の過半数がCPAPマスクを拒否・中断、あるいは十分に使いこなせていないと報告されています。

睡眠中ずっと機械につながれることへの心理的な抵抗も強く、「一生マスクに頼るなんて」と治療を敬遠する人も少なくありません。

こうした背景もあり、現在睡眠時無呼吸症候群に対する根本的な薬物療法は承認されていません。

(※2024年末に、肥満を伴う睡眠時無呼吸症候群向けに肥満症治療薬が初めて適応承認されましたが、睡眠時無呼吸症候群自体を直接治す薬は未だ存在しません)。

そこで近年注目されているのが、睡眠時無呼吸症候群発症の根本原因に働きかける新たなアプローチです。

その一つが「喉の空気の通り道を支える筋肉を薬で補助し、眠っている間も空気の通りを確保する」治療戦略でした。

2:睡眠時無呼吸症候群に薬で立ち向かう時代が来た

画像
Credit:Canva

2-1:筋肉を刺激する新しい経口薬の登場