これまで「ほぼホルモンのせい」とされてきた常識が大きく書き換えられた形です。
言い換えれば、身長差という“ピザ”の1杯の70~75%はホルモンで作られますが、その23%ほどはSHOXというトッピングがしっかり膨らませているのです。
今後は筋力や病気のかかりやすさも、同じようにホルモンだけでなく遺伝子との二重奏で見直されるかもしれません。
「今回の研究は、人間の身長差の謎に新たな光を当てただけでなく、性染色体異数性に着目した研究によって様々な疾患における性差のメカニズム解明にもつながる広い洞察を提供します」と、共同責任著者のアレクサンダー・ベリー博士はコメントしています。
実際、身長以外にも男女で差がある現象は多く、医学領域では性差医療と呼ばれる分野で盛んに研究されています。
例えば、自己免疫疾患(免疫の暴走による病気)は女性に多く発症し、逆に自閉スペクトラム症や注意欠如・多動症(ADHD)などの発達・神経疾患は男性に多いことが知られています。
こうした疾患リスクの男女差について、その原因は従来、性ホルモンの影響や生活環境の違いなどに求められることが一般的でした。
しかし今回のように性染色体由来の遺伝子作用が無視できない影響を持つ例が示されたことで、今後はホルモンと遺伝子の双方から性差を捉える重要性が再認識されるでしょう。
論文の著者らも「X染色体とY染色体上の遺伝子発現の差異が人の身長の性的二形(男女差)に寄与していることを本研究は示した。
さらに将来的には、身長に限らず性染色体異数性に関する研究を進めることで、自己免疫疾患や神経精神疾患など様々な医療分野で観察される男女差の根底にある仕組みが明らかになるかもしれない」と述べています。
一方で、今回明らかになった“隠れた手がかり”は、男女の違いを理解し活かす医療の発展に新たな道筋を示す成果と言えるでしょう。
また今後も同様のホルモンで説明できない遺伝子由来の男女差の要因がみつかれば、トランスジェンダーアスリートの問題にも影響が及ぶかもしれません。