重要な点は、この効果が性ホルモンなど他の性差要因とは無関係に現れたことでした。
男性(46,XY)は女性(46,XX)よりY染色体由来の恩恵で約3 cm強高く成長する計算になり、これは男女の平均身長差13 cmの約23%に相当します。
言い換えると、男性が女性より高い理由の約4分の1はY染色体上の遺伝要因で説明できるということです。
研究チームは、このY染色体効果の主な担い手が前述のSHOX遺伝子であると考えています。
SHOXは男女双方に2コピー存在しますが、女性ではそのうち1コピー(不活性化されたX上)が十分に機能しないため、男性のほうが実質的にSHOXの発現量が多くなります。
今回の大規模解析の結果もまさに、「女性ではSHOXの発現が低いために男性より身長が伸びにくい」という仮説を裏付けるものでした。
実際、研究ではY染色体上の遺伝子発現が増えることでX染色体の場合より高身長化に繋がることが示されており、これはSHOXのようなXとYに共通する遺伝子の働きによる可能性があります。
さらに補足すると、SHOX遺伝子に変異(先天的な損傷)があると男性のほうが女性より身長への影響が大きい傾向も示されており、SHOXの効果が性別で異なることを示す追加的な証拠となっています。
ホルモン vs. 遺伝子――二枚看板で読み解く未来医療

今回の研究は、男女の身長差に関してホルモン以外の遺伝的要因が大きな役割を果たしていることを初めて大規模データで示しました。
男性と女性の身長差は平均13センチほどありますが、このうち約9~10センチ(70~75%)は思春期に分泌される男性ホルモンが伸ばした結果です。
ところが今回の研究で、男性だけが持つY染色体のSHOXをはじめとしたY染色体の遺伝子が約3センチぶん、つまり全体の4分の1もの差をつくっていることがわかりました。