どんなに優秀な人材が集まっているとしても、「仲良し集団」では、それは愚かなことだと分かっているときでさえ、同調圧力などにより異見を述べにくくなる結果、しばしばバカげた決定をしてしまいます。「ベスト&ブライテスト」集団だったアメリカのケネディ政権が、キューバへの「ピッグス湾侵攻作戦」で惨めな失敗をしたのは、その典型例です。

要するに、プーチンの決定は、かれを「非合理な狂人」と見なさなくても、政治心理学の基礎理論を使えば説明できるということです。

もちろん、これまでのプーチンの行動に対する心理学的説明は推察にすぎません。この問題に関する新しい情報が明らかになれば、上記の説明は修正や棄却を余儀なくされることでしょう。そして、それは社会科学において健全なことです。われわれはロシアのウクライナ侵攻といった重要な解くべきパズルについて、「史料が明らかになるまで分からない」と逃げずに、入手できる情報をもとに「作業仮説」による説明を行うべきです。それが事実に近づくための第一歩なのですから。

ウォルト氏は、「残念なことに、誰一人として権力の座にいる者は、学問的成果に深い関心を寄せていないようだ」と嘆いています。わたしもまったく同感であるばかりでなく、これは政治権力サークル外にも多かれ少なかれ当てはまります。

政策立案者や専門家、市民が、政治心理学をもっと活用すれば、ロシア・ウクライナ戦争への理解が広く深まり、今までとは違う対応策も考えられるようになることでしょう。