ジャーヴィス氏は、国際関係論における「政治心理学研究」のパイオニアです。かれは「戦争は、国家が敵の力を過小評価すると同時に敵意を過大評価する時に、とりわけ起こりやすい」と指摘しています(Robert Jervis, “War and Misperception,” in Robert I. Rotberg and Theodore K. Rabb., eds., The Origin and Prevention of Major Was, Cambridge University Press, 1988, p. 125)。

政治指導者が侵略する相手国のパワーを過小評価してしまう短絡的思考は、以下の自信過剰バイアスと密接に関連しています。

自信過剰

「(プーチンのウクライナ侵攻の決定は)恐怖と自信過剰の組み合わせの…典型だ。国家は素早く相対的に低コストで目標を達成できる確信がなければ、戦争を始めたりしない。長く血みどろの高くつく敗北に終わるだろうと信じる戦争は、誰であれ始めない」。

この自信過剰バイアスには、政治家だけでなく研究者のみならず一般市民も広く冒されやすいので要注意です。この認知の歪みは、自分の判断を過信してしまうことです。そして、不幸にも、これは戦争の主要な原因の1つなのです。

詳しくは、ドミニク・ジョンソン氏(オックスフォード大学)の『自信過剰と戦争(Overconfidence and War)』ハーバード大学出版局、2004年をお読みください。

認知不協和と集団浅慮

「さらに、人間はトレードオフ(相容れない2つの選択)を扱うのは居心地が悪いので、一度戦争が必要だと決めたら、上手くことが運ぶだろうと見込む強い傾向がある…この傾向は政策決定過程から異論が排除されると酷くなり得る」。

社会心理学者のアーヴィング・ジャニス氏は、政治的意思決定において、対立する見解や行動がもたらす不快感(認知不協和)から逃れるために、「集団の凝縮性が高まると…逸脱した思考が抑制される…高い外的ストレスの条件下で、メンバーがリーダーの知恵に依存し、かつその集団の調和を維持しようとする誘因は…不安を軽減したいという動機である…『心配ない、すべては都合よく行くだろう』と…メンバーは互いの自信を高め、未知の危機にも安心感を持つ」結果、浅はかな決断をくだしてしまうと指摘しています(『集団浅慮』細江達郎訳、新曜社、2022年、403-419頁)。