なお、このような説明については、「ウクライナはロシアのものではないのだから、損失ではない」と反発する人も少なくないでしょう。
ここで大切なことは、ウクライナがロシアから独立した主権国家であるという事実ではなく、プーチンがウクライナの「NATO同盟国化」への動きをどのように認識していたのか、ということです。プーチンやモスクワの指導者にとって、ウクライナが「緩衝国」から敵対する強大な同盟勢力の一部になろうとしていることは、間違いなく大きな損失に映ったであろう、ということです。
「自分の行動は環境のせいにして、他人の行動はその人の本性のせいにする傾向も、たぶん関係している。現在、西側の多くの人は、ロシアの行動をプーチンの非道な性格が反映されたものであり、以前の西側の行為への反応とは解釈していない…プーチンからすれば…アメリカとNATOの行為は生来の傲慢さから生じたのであり、ロシアを弱い立場に置き続けたい深い願望に根ざしており、ウクライナは誤導されている…と見えるのだろう」。
こうした属性バイアスは、とりわけ侵略の標的とされた国家の指導者や市民の思考に重くのしかかります。すなわち、ウクライナは、プーチンのような攻撃的で危険な人物が政治権力を握っている限り安全ではないと判断することにより、戦争に終止符を打つのをためらうのです。
こうした戦争を長期化させるメカニズムは、Alex Weisiger, The Logics of War, Cornell University Press, 2013で詳しく解説されています。
「誤認に関する膨大な文献は、とりわけ故ロバート・ジャーヴィスの画期的な研究が、この戦争について、われわれに多くを教える。今やプーチンが多くの面で深刻な誤算をしたのは明らかだ。かれはロシアに対する西側の敵意を過大評価し、ウクライナの決意をひどく過小評価し、迅速かつ安上がりな勝利をもたらすはずだと自軍の能力を過度に見積もったようだ」。