しかし、ここにも大きな落とし穴があります。
2005年に『Annals of Internal Medicine』という医学誌に掲載された研究(Choudhry et al.)では、医師の卒業後の年数が増えるにつれて、最新の治療ガイドラインを守る割合が低くなることが示されました。
「治療ガイドライン」とは、様々な報告に基づいて「この病気にはこう治療すべき」という情報が共有されたものです。
若い医師は当然、最新の研究結果やガイドラインを学んでいるのでこれらを積極的に治療に取り入れます。

しかしベテランの医師ほど十分な知識更新をせず、自分が昔学んだ、慣れ親しんだ方法を優先する傾向がでてしまうのです。
その結果、ベテラン医師は患者にとって最も安全で効果の高い治療を選択せず、医療の質が下がってしまうリスクが生まれるのです。
実際2017年に『BMJ(British Medical Journal)』に掲載された研究では、約73万人の入院患者データを分析した結果、60歳以上の医師が担当した患者は、40歳未満の医師と比べて30日以内の死亡率が有意に高いことが報告されています。
研究者はその理由として、「医師が年齢を重ねるにつれて、最新の医学知識や治療ガイドラインに基づく医療を提供する頻度が低くなる」可能性を指摘しています。
ソフトウェア開発の分野でも似たような問題があります。
この分野の技術は極めて速く進化しており、過去の経験だけに頼っていると、あっという間に時代遅れになってしまう可能性があります。
Googleのソフトウェアエンジニア96人を対象とした2024年の研究では、AI支援機能を使用することで、複雑なタスクの完了時間が平均21%短縮されたと報告されており、最新のツールをどれだけ使いこなせるかが、この分野でどんどん重要になる可能性が示されています。
しかし2024年に米国で実施されたDiceの調査では、18〜34歳のエンジニアの約40%が週1回以上AIツールを使っている一方で、55歳以上のエンジニアの半数はまったく使っていないと回答しています。