興味深いのは、性的な声かけを受けた男性たちの行動にも変化が見られたことです。

ハラスメントシーンでは、なんと94%の参加者が男性アバター達に一切返事をせず無言でやり過ごしました。

屈辱と嫌悪で固まってしまい、関わり合いを避ける回避行動に出たのです。

それに対し、対照シナリオでは半数以上の男性が普通に話しかけに応じました。

さらに注目すべきは、VR体験後のインタビューで彼らが語った言葉です。

参加者たちは自分の感じたことを自由に語りましたが、AIを用いた文章分析によって、その内容にはいくつか共通するテーマがあると分かりました。

例えば、多くの男性参加者が「とにかく危険を感じた」「すぐその場を離れたくなった」といった安全への渇望を語り、「女性だから身を引いた。もし自分が男性なら言い返していただろうに…」というように無力感や悔しさも表現しました。

ある参加者は「安全な場所に逃げ込みたかったが、一人になるのはもっと危ないと感じた」と葛藤を語っています。

また別の参加者は「怒りの感情が自分の中でわき起こった」とも述べ、理不尽な扱いに対する強い怒りを覚えたことが窺えます。

このように、VR内での擬似体験にもかかわらず男性たちは現実さながらの恐怖・怒り・無力感を覚え、被害者としての視点で物事を考え始めたのです。

それは単なる同情ではなく、「自分が屈辱を受けた」という切実な実感でした。

研究チームはこれらの結果について、怒りや嫌悪といった感情はモラルな気づきを促すトリガーになりうると述べています。

普段はハラスメントと無縁だった男性でも、自分が被害者になれば「こんな行為は許せない」「自分はなぜ何もできなかったのか」と内省し、道徳的な自己認識が高まる可能性があります。

VRはまさにその気づきのきっかけを作ったと言えるでしょう。

参加者の一人は体験後、「女性への声かけがこんなにも怖いものだとは思わなかった。現実でも困っている女性がいたら助けたい」と語ったそうです。