ルチフォラ氏らの研究では、20代の男性36人が被験者となりました。

全員がVRゴーグルを装着し、一人称視点で女性の身体を動かせるように設定されています。

仮想空間のシナリオは二段構えです。

まず最初のシーンでは、参加者は自分が女性になった姿を鏡に映して確認します。

現実の自分の動きに合わせて、鏡の中の女性アバターも手足を動かし、まるで自分が本当に女性の体を得たかのような錯覚を起こさせます。

次のシーンでは、場所が地下鉄のホームに切り替わり、参加者の周囲に男性アバターが3人現れます。

ここで実験群では、男性アバター達が順に「ねぇ、どこ行くの一人で?」「おい、なんでもっと笑わないの?」といったセクシャルな絡み方をしてきます。

一方、対照群では「すみません、今何時ですか?」など当たり障りのない質問をするだけで、嫌がらせはしないよう設定されました。

このようにして、ただ見知らぬ男性に話しかけられる状況と、明らかに性的ないやらしい声かけをされる状況との違いを比較したのです。

(※研究チームはこの世界を作るのに Oculus Quest 2 と Unity Engine で独自にシナリオを構築しており、アセットとしては Unity Asset Store の「Basic Bedroom Pack」と「Urban Underground」を組み合わせて作っています)

結果は顕著でした。

男性たちは、性的な声かけを受けたグループでは、VR体験後の自己申告で「怒り」や「嫌悪」の感情が有意に強まっていました。

これらの感情は、倫理的に「それは許せない」という道徳的嫌悪感に分類されるものです。

一方で恐怖についてはどちらのグループでも増加傾向が見られ、声かけ群の方がやや高かったものの統計的な有意差はない程度でした。

研究チームは、地下鉄という環境自体が多少不安を誘うため、恐怖はハラスメント特有の反応とは言えなかった可能性を示唆しています。