しかし、それらをすべて考慮に入れても説明しきれない「残りの水」が存在し、この行方不明の水がどこにあるのか長年議論されてきました。
研究チームによれば、今回推定された地下水層の水量(全球換算で約520~780 m)は、まさに科学者たちが想定する「火星の残りの水」の量にほぼ一致するといいます。
言い換えれば、火星の失われた水の大部分は地殻深部で液体のまま潜んでいる可能性が高いということです。
地下深部に液体の水が存在し得るという発見は、生命探査の視点からも重要です。
地表が過酷な火星でも、厚い岩盤に覆われた地下深くであれば、内部からの熱で温度が保たれ、岩石によって放射線も遮蔽されるため、微生物が生存し得る環境が維持されている可能性があります。
実際、地球では地下数キロの岩盤中にも微生物圏(ディープバイオスフィア)が広がっていることが知られています。
水さえあれば、火星の地下にも太古の微生物が生き延びているかもしれない――今回の結果はそんな期待を抱かせるものです。
ある研究者も「もし火星に液体の水が存在するなら、微生物活動が存在する可能性があります」と指摘しています。
さらに、大量の水の存在は将来の人類による火星探査や居住の観点でも見逃せません。
水は人類にとって生命維持や資源利用に不可欠ですが、今回示唆された水は深さ5~8 kmにあり、現状の技術では容易に掘り当てて利用することはできないでしょう。
それでも、火星にこれほどの水が残されているという事実は、将来的に技術が進歩すれば人類が利用できる水資源が火星に存在する可能性を示唆しています。
研究に参加したタカルチッチ博士は「この水は、火星での生命や人類の未来に関わる深遠な問いを投げかける」とコメントしました。
火星に人類が赴く未来が訪れた際、この地下水が大きな意味を持つことは間違いありません。
では、この地下深部の「水の世界」の存在を確かめるには、これからどのような探査が必要になるのでしょうか。