火星の地下深くに、かつて火星を覆った海にも匹敵するほどの大量の液体の水が今なお存在しているかもしれません――。
国際的な研究チームがNASAの火星探査機インサイト(InSight)が記録した地震波データを解析したところ、火星の地表下5~8 km付近に“水の層”が広がっている新たな証拠が示されました。
これは以前の別の研究が示した地下11~20㎞とする結果よりも大幅に浅いものになります。
もしこの発見が確認されれば、生命の痕跡を探る研究や将来の火星での水資源利用にとって重大な意味を持つでしょう。
火星は現在乾燥した不毛の世界ですが、過去には川や湖、そして広大な海さえ存在していた証拠が数多く見つかっています。
しかし約30億年前以降、気候の寒冷化とともに表面の水は姿を消し、その行方は長らく謎でした。
今回、火星内部の「揺れ」(地震波)を詳しく調べることで、その失われた水の一部が地下深くに蓄えられている可能性が浮上したのです。
赤い惑星の奥深くに眠る“隠れ海”は、生命探査や将来の資源利用をどのように塗り替えるのでしょうか?
研究内容の詳細は2025年4月25日に『National Science Review』にて発表されました。
目次
- なぜ火星に地下水があると言えるのか?
- 火星の地下5 kmで波打つ“隠れ海”の証拠
- なぜ「深すぎず浅すぎず」の位置に海があるのか?
なぜ火星に地下水があると言えるのか?
現在知られる証拠によれば、火星にはかつて豊富な水があったこと考えられています。
まずノアキス代初期(約44~40億年前)にはすでに原始海洋と熱水系の活動が確認され、ジルコンの酸素同位体が“海と火山が共存した星”を物語ります。
続く約38~36億年前には、ジェゼロ・クレーターなどで湖岸の波紋やデルタが保存され、「風が波を立てるほど厚い大気と豊富な水」があったことが分かります。
ところがヘスペリアン代後半(約36~30億年前)になると、大気が急激に薄まり、長期にわたり安定して存在した海や湖は消滅したとする大気崩壊モデルが主流です。