そしてこのP波とS波という2種類の波の伝わり方の違いを利用することで、地下が固い岩石なのか、それとも水のような液体を含んでいるのかを推定できるのです。
P波とS波をたとえで解説
地下が“岩だけ”のトンネルを車が走る状況と、途中に“水たまり”の大きなぬかるみがある状況を想像してみてください。岩だけの一本道を走る車(=地震波)はブレーキを踏むことなく一定スピードで突き進みますが、ぬかるみに差しかかるとタイヤが取られスピードが一気に落ち、さらにはハンドル操作(進行方向)まで変わってしまいます。同じように、地下が完全に固体ならP波もS波もほぼ直線的に速く届きますが、途中に液体が混じるとS波は進めず(横波が通らないため)一旦“立ち往生”し、P波も速度が落ちて回り道を余儀なくされます。その「到着の遅れ」や「消え方」を比べることで、地震計はまるで“道路の渋滞情報”を読むかのように、地下に岩盤しかないのか、それとも水たまりが隠れているのかを見抜けるわけです。
NASAのインサイト着陸船は2018年に火星に降り立ち、搭載された高感度の地震計(SEIS)で2022年まで火震や隕石衝突による揺れを記録しました。
単一の地震計ながら、インサイトは火星の核やマントル、地殻の厚さや組成を明らかにする多くの成果を上げています。
そしてそのデータは、地下に氷や液体の水が存在するかどうかを探る手がかりにもなり得るのです。
近年の別の研究では、インサイトが観測した地震波を解析することで、地下およそ11~20 km付近の岩盤に小さな割れ目や孔隙があり、そこに液体の水が存在する可能性が指摘されました。
一部の推定では、この水が火星全体を最大で数百メートル以上の深さで覆う水量に相当すると言われています。
もっとも、あまりに深い層にあるため、将来人類が直接利用するのは現実的ではないとも指摘されています。
そこで今回、中国・オーストラリア・イタリアの国際研究チームは、火星のより浅い地殻上部に液体の水が残存していないかを地震波解析によって探ることにしたのです。