それでも火星は完全に乾き切ってはいませんでした。
最新の年代測定によれば、塩化物が濃縮した浅い池や塩湖が約30~20億年前、さらには“逆転河道”と呼ばれる川跡が約19億年前まで残り、季節的あるいは局所的に液体の水が顔を出していた痕跡が残っています。
19億年前と言えば、地球にはシアノバクテリア(酸素を放出する光合成細菌)などの細菌が既に存在していた時期になります。
ですがその後は気温・気圧の低下、そして太陽風による大気の剥ぎ取りが進み、表層の水は極冠の氷と地下の氷・鉱物中の結晶水へと姿を変えました。

しかし近年の研究により、火星の地下にはまだ豊富な水が液体の状態で存在している可能性がみえてきました。
そんな火星の水の謎を解き明かすことは、火星の気候変遷や地質進化、さらには生命の可能性を探る上で極めて重要です。
そこで注目されたのが、地震波(火星の場合は「火震(Marsquake)」の波)の解析によって地下構造を探る手法です。
地震波は地下を伝わる際、その通り道の岩石や物質の性質によって速度や挙動が変化します。
特に「はじめに「ドン」ときて次に「グラグラ」と大きく横に揺さぶられる」あるいは「カタカタ小さな揺れが先に来て『あ、地震!』と思った瞬間、ユサユサに変わった」と多くの日本人が地震で体感する“二段階攻撃”が重要になります。
ドンにあたるのがP波と呼ばれる縦揺れの波でグラグラにあたるのがS波と呼ばれる横揺れの波になります。
(※ただし地球を深く貫通するような遠距離の場合には単純に上下や前後左右では表現しきれずP波でも横揺れとなったりS波でも縦揺れに近い状態で観測されます。そのためより厳密には振動方向が伝播方向と平行なものがP波で、振動方向が進行方向に対して垂直なものがS波となります)
また体験談からもわかるように、P波は固体でも液体でもS波より速く到達します。