右の図での上部(灰色)は衝突による堆積物の層、その下の5~8 kmの範囲(青色部分)が液体の水で満たされた多孔質の岩石層として描かれています。
このため、この深度5~8 km付近では凍っていた氷が融解して液体の水が存在できる条件が整っていると考えられます。
以上の知見から、研究チームは地下5~8 kmに見つかった低速度層を「液体の水で満たされた多孔質の岩石層」と解釈しました。
実際にその層の隙間が完全に水で飽和していると仮定した場合、そこに含まれる液体水の量は火星全体を平均520~780 mの深さで覆う水量に相当するという計算結果になりました。
これはまさに火星に古代存在したと考えられる海の規模にも匹敵する莫大な水量です。
ただしこの数字はインサイト着陸地点直下の地震波データに基づく推定値であり、火星全体に同じような層が均一に広がっていると仮定して算出したものです。
また、この推定には地殻中の「元々あった水」(たとえばマグマ由来で深部に残存する水など)は含まれていません。
言い換えれば、今回推定されたのは現在観測された地殻上部の水層による水量であり、場所によってはこれより多かったり少なかったりする可能性もあります。
研究チームは論文の中で「我々の結果は、火星の上部地殻の底部に液体の水が存在することを初めて地震学的に示すものであり、火星の水循環や居住可能な環境の進化に関する理解に大きく貢献するだろう」と強調しています。
これは現在の火星にも地中に大量の液体水が残されている可能性を示す、画期的な証拠と言えるでしょう。
液体の水があるならば広大な地底湖もあるのか?
多孔質層では理論上、局所的に地下で砂粒どうしが固まって(セメンテーションが進んで)中空洞が残る可能性はあるものの、地下水流と岩圧のバランスから見ると数十 mを超える“湖室”を長期安定で保つのは難しいと考えられます。つまりSFで描かれるような広大な地底湖が火星地下に存在する可能性は残念ながら低く、液体の水を含んんだ地質が広がっているイメージが最も近いものになります。
なぜ「深すぎず浅すぎず」の位置に海があるのか?
