薪ストーブ業界が「木材を燃やしても人にも環境にも優しく、一切の汚染をしない無害なもの」と主張することに対し、科学的視点から以下の問題点を指摘します。

・有害物質の発生: 木材燃焼は、PM2.5、一酸化炭素、窒素酸化物、ベンゼン、ホルムアルデヒドなどの有害物質を必ず生成します。これらは無害どころか、呼吸器系疾患やがんのリスクを高めることが科学的に証明されています(例: 2022年の日本環境とこどもの研究では、薪ストーブの煙が小児喘息の要因と指摘)。業界が「無煙」「無臭」を謳う場合もありますが、高価な二次燃焼装置や触媒を備えたモデルでも、完全な無害化は不可能です。この主張は事実と乖離しており、虚偽広告に近いと言えます。

・大気汚染の実態: 薪ストーブからの排煙は、ろ過されずに煙突から直接排出されるため、地域の大気汚染に直結します。ロンドンの1952年スモッグ事件や、現代の都市部でのPM2.5問題が示すように、木材燃焼は空気質を著しく悪化させます。業界が「環境に優しい」と主張することは、こうした歴史的・科学的証拠を無視したものであり、誤解を助長します。

・炭素中立の限界と環境負荷: 前述の通り、炭素中立はCO2の収支に限定された議論であり、燃焼過程で発生する他の汚染物質や、森林伐採による生態系破壊を考慮していません。欧州では、木質バイオマスのエネルギー利用が見直され、再生可能エネルギーから除外する動きもあります。業界がこれを無視し、「環境に一切の汚染をしない」と言い切るのは、科学的根拠を欠いた誇張です。

・健康被害のエビデンスとの矛盾: 国内外の研究が木材燃焼の有害性を指摘する中、業界の「無害」主張は孤立しています。例えば、米国環境保護庁(EPA)は2015年に薪ストーブの排出基準を強化し、粒子状物質の削減を義務付けました。業界が科学的コンセンサスに反する主張を続けることは、消費者の信頼を損ねるだけでなく、公衆衛生に対する無責任な態度と言えます。

結論