かつては「結婚したら夫の姓に変えるのが当たり前」という風潮が強かったですが、今では旧姓のままで仕事を続けたいと考える人も増えています。例えば、現在の女性役員層(ある程度年配の世代)でも約3割が職場で旧姓の通称を使っているという調査があります。若い世代ではさらに旧姓使用が浸透していると考えられ、名字=アイデンティティと感じる人が増えているのです。さらに世界を股に掛けるような職業では結婚することで姓が変わると物凄い作業量が発生して大きな負担になる。こういう人たちは「旧姓使用したいわけではなく、姓をそもそも変えたくない」のです。

離婚・再婚が珍しくなくなった現代では、再婚相手との間に生まれた子、前の配偶者との子などが一緒に暮らすステップファミリーも存在します。この場合、家族内で名字が異なることもあります(たとえば連れ子は前の姓のままとか)。それでも新しい家庭としてしっかり成り立っている例は数多く、名字の一致不一致は愛情や生活の実態とほとんど関係がないことがわかります。

古い「戸籍」のイメージと今の戸籍制度

なぜ「戸籍制度が壊れる」なんて声が出てくるのか? そこには、戸籍に対する古いイメージが影響していて、年配の方ほど、「戸籍=家族が一つの姓でひとまとまりになっている台帳」「一家の大黒柱(戸主)が家族を束ねている」という封建的な家制度時代の戸籍をイメージしがちです。しかし実際には、現在の戸籍制度は昔とは大きく様変わりしています。

戸籍は平成の時代に入って大きく様変わりしました。かつて役所では戸籍原本を和紙の台帳で管理していましたが、現在は戸籍の電子化が完了し、全国どこの市区町村役場でもコンピュータで戸籍情報を管理しています。縦書きだった戸籍様式も横書きに改められ、戸籍謄本と呼ばれたものは「戸籍全部事項証明書」、戸籍抄本は「戸籍個人事項証明書」と名称も変わりました

この名前からも分かるように、個人の事項を証明する書類という色合いが強くなっています。実際、戸籍には一家全員が連ねて書かれているわけではなく、現代はせいぜい夫婦とその子ども(子が独立するまで)の情報に限られます。役所間の連携も進み、2024年には戸籍情報を全国でオンライン連携するシステムも稼働開始しました(本籍地の役所に問い合わせなくても必要な戸籍情報を取得できるようになる仕組み)。もはや戸籍は紙の帳簿ではなく、行政が個人の身分関係を管理するデータベースと言ってよいでしょう。