「価値ゼロの商品や共同使用の経済空間、非市場の組織、非所有の製品の世界を限界効用理論では理解できない。」(P.279)

再び「要綱」

メイソンは「要綱」を詳しく読み直していくつかの発見をしている。そのひとつ、マルクスは機械がいつまでも使える、つまり寿命が来ないなら、という前提で未来を考えていた。つまり情報化時代にはじめて現実になったことを1858年に亡命先のロンドンのガス灯の下で書いていた。

「価値の一部が社会的知識と公共科学によって無料で投入されている機械は、労働価値説にとって異質的な概念ではない。これらは、労働価値説の中心に据えられている。

しかし。マルクスは、もし、これらが多数存在したら、労働価値説に基づくシステムを破壊させることになる、と考えた。「粉々に破壊する」と「機械についての断章」の中で述べている。」(P.284)

小括

本稿ではP.メイソンの労働価値説擁護に焦点を当てた。彼の主張は広い範囲に及んでいるが、本書の最後には未来社会の可能性とそのおおまかな姿を示すことなる。

「本書の目的は、将来の枠組みを設計すること」(P.21、プロローグ)。

それは最終章の第10章で「プロジェクト・ゼロ」という表題のもとに展開されている。なぜそう呼ぶかといえば、CO2ゼロ、限界費用ゼロ、労働時間ゼロ、を目指すからだ。経済学の未来を設計するための科学につくりかえ、しかも実行段階では「大きな話」を避け、小規模でテストしていくことを提案している。そのためには次の5つの原則を掲げる。

人間の意志力には限界がある。 生態学的持続可能性 経済の移行だけでなく、人間の移行でもなければならない あらゆる方向から問題に取り組む。変化の担い手は国家や企業だけでなく、個人や普通の集団もそうである

私(評者)は『The NEXT』で中間領域の様々な組織に注目しているが、上記の主張と共有部分がある。メイソンが信用組合や協同組合などに期待を抱いているのはリフキンからの継承であるが、私も同意する。

情報力を最大限に生かす。つまりIoTの利用だ。それは知識を社会化することである。