オープンソースの代表例はウィキペディアだが、なんで無料なのだろう? もし有料だったら年間28億ドルを稼ぐ計算だ。従業員はたったの208人だ。
爆弾発言
では、モノの価値が労働の継続時間で尺度されるという労働価値説はどうなるのだろう。
「仕事のほとんどを機械が行う経済では、人間の労働とはまさに機械を監視し、修理し、設計することになる。機械の中に閉じ込められた知識の本質が「社会的」となるに違いない」(P.233)
引用の前半は、メイソンがマルクスの若き日の作品であるGrundrisse der Kritik der politischen Ökonomie、『経済学批判要綱』(以下、「要綱」)から引いている。
「要綱」※1)は1960年代終わりまで人の目に触れることがなかった。マルクスの死後エンゲルスが長い保管の後、公開してくれたので人類の遺産になった文書だ。これを爆弾発言としてメイソンは注目している。
※1)日本では、1958年になって九州大学の高木幸二郎教授とそのグループが訳し、その後、研究材料として利用されたが、情報化の検討に使われることはなかった。情報化が進展する前に日本のマルクス経済学は崩れてしまったからだろう。
爆弾発言は「要綱」の「機械についての断章」からだが、ここからメイソンは次の二つの考えを引き出す(P.236)。
①生産力を牽引するものは知識であり、機械に蓄積された知識は社会的である ②知識が主導となる資本主義は、その価格メカニズムを維持できない
この1858年に書かれた断章は、その後に『資本論』の基礎となった労働価値説と対立しているように見える。ところが、そうではないとメイソンは言う。
「マルクスを超えたマルクス」として、この断章を検討したのはイタリアの左派アントニオ・ネグリとパオロ・ヴィルノで、彼らは「機械についての断章」で記述した考えは、「マルクスが他では書かなかったが、実はいつも彼が考えていることの代案のようなものだ」(P.237)と言っている。