個別の事件で、捜査機関が、どのような文書の任意提出を求めるのか、というのは、まさに、その事件の内容、証拠関係、捜査状況に応じて検察官が判断するものであり、あくまで当該事件の個別の問題だ。任意提出を求めるのは、その時点でそれを証拠として確保しておくことが必要と判断したということであり、文書等の任意提出を求めることについての検察官の判断は、事件の内容・性格、関係者の供述状況、既に収集済の証拠等によって、また、捜査対象者の協力の程度によって異なる。

私は、某地検特別刑事部長として検察独自捜査の対象としていた行政庁からの文書の任意提出を受けた事例も紹介しつつ、「任意提出を求める場合、どのような文書を含む証拠の提出を求めるのか」などということを一般的に言えるものではないし、検察官の判断で、或いは告訴・告発を受けて行う捜査の場合には、対象文書の特定情報(行政文書の名称等の情報)がわかり、捜査対象とされ任意提出された行政文書の内容、範囲、通数等がわかっても、当該捜査対象事案に関連する文書やファイル等の存在がわかるだけであり、当該時点での捜査の内容や捜査機関の関心事項が推知されることにはつながらないとする意見書を作成し、弁護団に提出した。

被告の国側がこのような「無理筋の理屈」を主張したのは、任意提出を受けた文書の範囲がわかることが、検察にとって余程不都合だという事情があったのかもしれない。

そういう国側や検察への「皮肉」を込めて、上記意見書の結論に、以下のようなことも書き加えておいた。

本件で任意提出の要否の検察官の判断が、通常、検察官が行う判断とは異なり、不自然に消極的なものであった場合には、「事件の真相解明に向けて、検察官が適切に判断して刑訴法上の権限に基づく証拠収集を行うこと」という検察官の本来の捜査とは異なったものであること、本件の刑事処分の適正さを欠いたことを疑う余地を生じさせることはあり得るかもしれない。しかし、それは、当該個別事件で捜査についての検察官や検察庁の方針を推知する材料になるだけであり、一般的な同種事件、将来の事件の捜査手法や捜査対象の範囲を推知させるものでは全くない。