さらに文化的・社会的な背景として、体罰が当然とされてきた地域や世代では、「自分も叩かれて育ったのだから」「叩くことが愛情の証だ」という考えが根強く残っていることも大きな要因でしょう。

学校内の体罰を総括したレビューでは、叩かれる子どもほど問題行動と成績低下が同時に進行し、米国二つの縦断コホートでは体罰を受けなかった群の方が IQ が平均で 2.8〜5 ポイント高く伸びました。

(※中低所得の国を調べた今回の調査では認知機能の悪化はみられませんでした。米国との調査とはこの点において異なります)

92 か国から集めたメタ解析でも、体罰が学業・言語能力・実行機能を向上させた例は皆無で、むしろ平均値を下げるという結果しか得られていません。

発達障害や知的障害のある子どもは体罰を受けやすいばかりか、症状の悪化と学校適応の失敗がより顕著でした。

これらのエビデンスは、体罰が本来解決したかったはずの学力不振や行動問題をむしろ長期的に悪化させ、子どもの将来に重いコストを課すことを示しています。

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元論文

Physical punishment and lifelong outcomes in low‑ and middle‑income countries: a systematic review and multilevel meta-analysis
http://dx.doi.org/10.1038/s41562-025-02164-y

ライター

川勝康弘: ナゾロジー副編集長。 大学で研究生活を送ること10年と少し。 小説家としての活動履歴あり。 専門は生物学ですが、量子力学・社会学・医学・薬学なども担当します。 日々の記事作成は可能な限り、一次資料たる論文を元にするよう心がけています。 夢は最新科学をまとめて小学生用に本にすること。

編集者

ナゾロジー 編集部