こうした影響は、本人のメンタルヘルスのみならず、成人後のパートナーや周囲の人々との関係にも大きな影を落とすかもしれません。

一方で、体罰が「しつけの方法の一つ」だと信じている親は少なくありません。

むしろ、短期的には子どもが言うことを聞いたように見えるため、しつけがうまくいったと誤解されがちです。

ですが長期的には、子どもの学習意欲や社会性を損なったり、何より「大人との関係に恐怖や不信を抱くようになってしまう」リスクがはるかに大きいのです。

こうした深刻な影響を踏まえると、体罰に代わるポジティブなしつけ方法の普及が世界規模で求められているといえるでしょう。

研究者たちは、国や文化を超えたかたちでの法的整備や啓発活動、親をサポートする地域コミュニティの仕組みづくりなどが、子どもを暴力から守るために不可欠だと考えています。

それらの取り組みが広まることで、未来を担う子どもたちが、安全で豊かな成長のチャンスを得られるはずです。

なぜ体罰肯定理論は根強いのか?

体罰の効果
体罰の効果 / 認知能力については今回の研究では体罰による低下は見られませんでしたが、米国での調査ではIQなどの低下がみられました。/Credit:clip studio . 川勝康弘

伝統的な雰囲気の過程では「殴られないで育つとロクなやつにならない」「叩かなければ言うことを聞かない」という主張を耳にしたことがある方も多いでしょう。

実は、体罰によって子どもが一時的におとなしくなったり、親の要求に従ったりする即時的効果は、どの国でもある程度確認されています。

上の表を見てもわかるように、高所得国・中所得国・低所得国を問わず、「体罰を受けると短期的には言うことを聞くようになる」という研究結果は存在するのです。

しかし、ここで重要なのは、その効果がわずか数分から数時間程度にとどまるという点です。

親側から見ると「叩いたらすぐに静かになった」「急に言うことを聞いた」と感じるため、「体罰こそが有効なしつけ法だ」と思い込んでしまいやすくなります。